−寝付けないな・・・−

何故だかわからない。いつもの様に仕事をこなし、いつもの様に寝付いただけだった。

けど、今日は違った。何故か寝付くことができない。

そんな事を考えつつも、とりあえず夜風に当たるべく

陸遜は外への扉へ歩を進めた。

外に出ると、花の香りを乗せた心地よい風が身体を、そっと通り過ぎていった。

ふわり、と舞い降りてきたのは一枚の花弁。それを片手で受け止めた。

飛んできたであろうその方角をに振り向くと

そこには満ちた満月と、月明かりに照らされた紅梅の木が立ち並ぶ一筋の道。

そして

『・・・・・・・―――――』

消えいるように聞こえた、歌声。

満ちた満月のせいか、それとも紅梅の香りのせいか、――歌声のせいか

只ゆっくりと、誘われるように陸遜は歩き出した。

咲き乱れた紅梅の花弁が舞い散る道の着いた先。

そこは、ひらけた場所で、何故かそこだけに咲く沢山の花々。

そして

月夜の花の中で歌を響かせる―姫君。

「尚香様」

「え?陸・・遜・・・?」

驚いて、振り向く尚香。

「隣、よろしいでようか?」

「あ・・・うん。いいわよ」

「失礼します」

陸遜はそっと近づき隣に腰を下ろす。

尚香は恥ずかしそうに、両指をいじらせながら

「聞いてた・・・?」

「はい・・とても綺麗な歌声でしたよ」

すると、彼女は顔を真っ赤にさせ反対側を向いてしまった。

「でも・・・どうして?ここに?」

「寝付けなく・・・外に出ると、貴女の歌声が聞こえて、ここに」

「そうだったの・・」

「尚香様は?」

「私も・・・寝付けなくてさ」

尚香は赤らめ顔で笑い

「すごい偶然よね」

陸遜は月明かりに照らされ、消え入りそうなその様に思わず

彼女を自分の胸へと抱き寄せる。

夜風ですっかり冷たくなっている身体のはずなのに、暖かく感じる。

「り、陸遜!?」

「・・・しばらく、このままでいさせて下さい」

一体どれぐらいそうしていただろうか。

一瞬か、それとも長い時かは、わからない。

そっと、尚香が呟く。

「陸遜の身体、暖かいわね・・・」

「すみません。いきなりこんな事して」

「別に・・・嫌・・じゃない・・・・から・・・」

抱きしめる手を少し強める。

「・・・きっと狂わされたんです」

満ちた月と、花の香りと、――歌う貴女に。

途端、小さな寝息が陸遜の耳を掠めた。

どうやら寝てしまったようだ。

起こさぬよう尚香を抱き抱える。

顔にかかった髪を指先ではらってやり、そっと額に口付けて

陸遜は思う。

―きっと、寝付けなかったのは偶然ではない。私は導かれたのだ。ここに―



何だか少し恥ずかしい話に・・・

製作日 H17/2.12


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