誰も居ない厨房で、只じっと眼の前のせいろを見つめている尚香。



しばらくすると、それの蓋をそっと開ける。

すると、美味しそうな匂いとともに大量の水蒸気が外へと飛び出し、視界を覆った。

そして、せいろの中にある美味しそうな三個の肉まん。

とりあえずその一つを手にとり、半分に分けて少しだけかじる。

「美味く・・・できた・・かな?」

自分が美味しいと思っても相手がどう思うか分からない。

尚香は残った二つを皿に盛った後、それを持って冷めないうちに、足早に歩き出した。



まだ肌寒い風のふく廊下を、歩いて着いた先。そこは一つの部屋。

「り、陸遜居る?」

返事はない。とりあえず尚香は、確認するべくゆっくりと扉を開き中に入った。

部屋の主はそこに居たのだが、どうやら気づいていないようだ。

「陸遜?」

驚いて振り向く陸遜。やっと尚香が居る事に気づき

「あ・・・すみません、尚香様。書簡の方に気をとられていたものでして」

「別に気にする事ないわ。突然来た私がいけないんだから」

尚香は、陸遜の机の上に持ってきた皿をそっと置いた。

「この肉まんは?」

すると少し恥ずかしそうに

「えと・・陸遜、最近忙しそうだったから・・・あまり、食べてないと思って私が作ったの・・・美味しいか分からないけど」

「尚香様が?」

「・・・変かな?」

「いえ・・そうじゃなくて」

陸遜は口元に手を当てる。頬がほんのり朱に染まるのが分かる。

ゆっくりとまだ温かい肉まんを手に取り、笑って

「・・・お心遣い、ありがとうございます」

ふわりと美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。

「では、頂きますね」

―一口食べる。―

尚香は恐る恐る

「・・・どう?」

「とっても、美味しいですよ」

・・・・・・・・

「本当!?本当に!?」

「ええ」

強張っていた尚香の顔がすぐに笑顔に変わる。

「よかった・・・あ!?」

安心しきったせいか、力が抜けて倒れそうになる。

すると、陸遜が支えてくれた。

「大丈夫ですか?」

「えへへ・・・ありがとう」

そのまま尚香の背中に手をまわして、抱きしめ

そっと呟く。

「今度・・・何かお返しいたしますね」






オマケ




一通り落ち着いてしばらく経った後、騒がしい足音が聞こえてきた。

途端、部屋の扉が大きい音を立てて開かれた。

「よぉ!!陸遜!」

「甘寧!」「甘寧殿!」

驚き振り向く二人。

「ん?姫さんも居たのか」

そんな二人を見ながら甘寧が発見した物。それは・・・

「お!肉まんじゃねぇーか!貰うぜ!」

「あ、それは・・・」

残っていた肉まんを素早く手に取る。陸遜は止めたが既に遅し。

「どうしたんだよこれ!すげぇ美味いじゃねーか!」

上機嫌の甘寧。放心する陸遜。そして肩を震わせる尚香。

「なんで甘寧が食べちゃうのよ・・・」

怒った尚香は甘寧の胸を叩いて

「甘寧の馬鹿!馬鹿!馬鹿!バカンネイー!!」

目に涙を浮かべながら、部屋を出て行ってしまった。

「な、なんだぁ?どうしたんだ?姫さん」

何がどうしたか分からずに戸惑う甘寧。突然、悪寒を感じた。

その背後には殺気立った陸遜が立っていて、右手で甘寧の左肩をつかんでいる。

「あの肉まんは尚香様がわざわざ私の為に作ってくださったものなんですよ・・・」

肩に置かれた手を振りほどこうにもほどけない。

「意味が、分かりませんか?」

徐々に手に力がくわわる。

「え?いや、あ、あの・・・陸遜さん?」

「覚悟はよろしいでしょうか?」

陸遜の左手には彼愛用の双剣が握り締められていた。



実はバカンネイを漢字にしてみたかった。後、姫さんじゃなくお嬢と呼ばせたかった。

製作日H17.2.14

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