春風が桜の花弁をそっと運んでゆく

―もう、こんな季節になったのか―

そんな事を思いつつ蘭丸は、約束の桜の木へと足早に向かった

辿り着いた先には気持ち良さそうに眠る、お市

ため息を一つついて、起こさぬようにそっとお市の隣に座る

髪を揺らしながらすり抜ける風が心地よい

ふと、隣を見ると市が寝返りをうってくる

起こしてしまったかと蘭丸が少し戸惑う

すると、お市の瞼がゆっくりと瞬きした

「ん・・・あれ・・?蘭丸様・・・?」

「起こしてしまいました?」

「ううん・・・何か、起きなきゃいけないって思ったから・・・」

お市は眠そうに眼をこすりながら

「そしたら・・・蘭丸様が居て・・・あ・・ごめんなさい・・・待ったでしょ?」

申し訳なさそうに、蘭丸を見つめる

「そんな事ありませんよ。私もたった今来たばかりですから」

お市の顔がパッと笑顔に変わる

「よかった・・・」

ほんわかとした笑顔に心が和まされる

「それより、なんでしょうか?私に用事というのは」

「あ、あのね!ここは市だけが知ってる秘密の場所なんだよ!」

突然立ち上がって、両手を広げて見せるお市

「すごい綺麗で大きな桜でしょ?だから・・・」

少し顔を赤らめる。広げた両手を下ろして、後で組みながら下を向く

「これを見れば、蘭丸様の心の疲れが少しでもとれるかなって思って・・・今まで戦続きだったから」

健気で愛くるしいお市を見て。蘭丸は思う

―私は・・・貴女が居るでだけで十分ですよ?けど・・・こんなにも―

お市の優しさが痛いほど、心に沁みる

「・・・私は幸せ者ですね」

「え?」

蘭丸は自分の居る方へとお市をそっと抱き寄せる

「貴女と同じ時を、一緒に過ごす事ができるんですから・・・」

咲き誇る桜だけが、只じっと二人を見ていた


―戦を離れて、こんな一時を過ごすのもいいかもしれない―



ちゃんと、うまくできているか自分でもドキドキの作品。

製作日 H17/2.13
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